さる2019年5月半ば、私はパレスチナ自治区・ヨルダン川西岸地区内のベツレヘムを訪れました。
「パレスチナ自治区に旅行した」というと、日本ではイスラエルと周辺の中東諸国の紛争の地としてテレビやマスコミで報道されていることもあり「え?そこって観光できるの??」という疑問を持つ方も少なくないかと思います。
しかし実際のパレスチナ自治区内は、観光客にひらかれた一部エリアであればかなり治安が良く、またその中でもベツレヘム区域はキリスト生誕の地として認識されていることからヨーロッパからの観光客も多いです。
そして数多くの一人旅をしてきた私も、パレスチナでは忘れられない最高の思い出をいくつも作ることができました。
今回はそんなパレスチナ自治区内のベツレヘムを女子1人で訪れた体験記を簡単に書きたいと思います。
※5月にイスラエルを含めた地中海の国・地域を周遊し、その途中でパレスチナ自治区内ベツレヘムを訪れました。ほかにもトルコ、ヨルダン、ギリシャ・エジプトなどを訪れました。
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アウトラインは以下の通りです。
- なぜパレスチナ自治区内へ行こうと思ったのか?
- エルサレムからパレスチナ自治区内へ
- タクシーをチャーターして観光ツアー(1日目)
- 何度でも訪れたいホテル「Dar Sitti Aziza(ダール・シッティ・アジザ) 」
- タクシーをチャーターして観光ツアー(2日目)
なぜパレスチナ自治区内へ行こうと思ったのか?
私がパレスチナ行きを決めたのはエルサレムにいくためのイスラエルの首都(?)テルアビブからのバスの中でした。
パレスチナ自治区、特に観光の中心となるベツレヘムはエルサレム旧市街からわずか10キロしか離れておらず、多くのヨーロッパ観光客はエルサレムとベツレヘムをセットで回る、とググって知り、ならば私もせっかくだしベツレヘムまで回ろう!とホテルを予約。
※エルサレムについてはこちらの記事をどうぞ。
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また私がエルサレムを訪れた2019年5月13日の2日後である5月15日は「ナクバの日」、パレスチナの地からアラブ人が追い出された哀しみの日として知られています。このスケジュールになったのはたまたまではありましたが、ぜひパレスチナで何が起きているのかを知ってみたいという気持ちもあいまって、エルサレムの観光を予定より半日早く切り上げベツレヘムへと向かうバスに乗り込みました。
エルサレムからパレスチナ自治区内へ
パレスチナ自治区内へはエルサレム旧市街発のバスで向かう必要があります。
こちらがバスターミナル。
エルサレム旧市街のダマスクス門付近にバスの乗車口があり、231番か234番のバスに乗るとベツレヘムへ向かうことができます。
バスに乗って沈む夕陽を眺めていると何度かバスが止まり、その度に身分証明書としてパスポートを提示しました。この際パレスチナ居住民の隣の男性たちから「自分たちはパスポートを持ってないんだよ」と教えられました。パレスチナ居住区の人々はidentificationとしてぺらぺらの紙1枚しか持てないとのこと。国際情勢を感じる瞬間でした。
道路は非常に空いており、わずか30分ほどでイスラエル側のベツレヘムへと到着しました。到着して特に手続きなどもなく、ゲートを通るとすぐにパレスチナ側ベツレヘムへ到着しました。
パレスチナ側のバスターミナルの様子です。到着するとたくさんのタクシーがお出迎え。
タクシーをチャーターして観光ツアー(1日目)
どのタクシーに乗れば良いのかわからなかったので、とりあえず声をかけてきたタクシーに翌日までチャーターをお願いし、早速観光ツアーへ。
このようにパレスチナを観光する際はタクシーチャーターが一般的なようで、タクシー側も慣れているのか価格交渉とルートの提示はスムーズです。
タクシーの運転手はラマダン中でお腹が空いているはずなのにもかかわらず、売店で水を買ってくれたり、途中下車のお願いにも快く応じてくれてとてもいい人でした。ありがとうモハメドさん!
バンクシーの絵画巡り(1日目)
まずはバンクシーの有名な絵画巡りへ。
バンクシー本人の絵はパレスチナ自治区内に何枚かありますが、そのうち2枚を日が沈むまでに回りました。
もっとも有名な花束を投げる絵が描かれていたのはなんとガソリンスタンドの壁(!)で、想像していたよりずっと大きかったです。一体どうやって描いたんだろう。
モハメドさんと解散し、1日目は終了。翌日は早朝からキリストが誕生したとされる生誕教会を見学しました。
何度でも訪れたいホテル「Dar Sitti Aziza(ダール・シッティ・アジザ) 」
私が宿泊したのはベツレヘムの中心地に位置するDar Sitti Aziza。結論から言えば、私はこの宿に宿泊するためだけにベツレヘムにもう一度来ても良いと思えるくらい素晴らしいホテルでした。
まず部屋が広々としていて気持ちが良いです。ベッドもコットンで寝心地が最高で、壁には伝統的なモザイク画がかかっており、ゲストへのホスピタリティを随所に感じます。
またチェックインの際に I'm hungry、と漏らしたのですが、オーナーのNabilさんが近くのレストランのクーポン券と地図を渡してくれただけでなく部屋にベツレヘムの郷土料理を持って来てくれました。
イフタール(ムスリムの人々が断食のラマダン明けに食べる食事)に食べるパイやレモネードなど、どれも自家製でとても美味しかったです。
中に置いてあるアメニティにもオーナーのNabilさんのこだわりがあるのだと丁寧に教えてくれました。ボディクリームはハンドメイド。こちらの石鹸はJICAの支援でパレスチナの女性が手作りしたものだそうです。
ベツレヘム のホテル、お腹空いたんだよねって話したら、ホテルのオーナーが手作りのお菓子をたくさん持ってきてくれて優しさに咽び泣いてる
旅の最初はぼったくられまくって散々だったけどやっぱ人って優しいわ、、、
1枚目、パレスチナの伝統的なお菓子らしい🍭パイみたいで甘くて美味しい🤤 pic.twitter.com/qY6Q6scoo1
— megan㌠ (@sunteam097) May 13, 2019
また朝食のジャムやパンも全て手作りだそうで、どれもとても美味しかったです。
手作りのブルーベリージャムやはちみつを中東の郷土料理であるピタブレッドにつけて食べると最高に美味しかったです。
Nabilさんは他のノルウェーから来たゲストがコーヒーを気に入ったと聞くやコーヒーをプレゼントしたり、私のお昼を心配してサンドイッチを持たせてくれたり。溢れ出るホスピタリティに感動してしまいました!
中庭は気持ちがよく、目の前にはイエスが生まれたと言われる生誕教会が見えます。
同時に朝食を食べていたノルウェーの女性はこの宿になんども宿泊しているとのことで、聞けばわざわざここに宿をとりエルサレムへ観光しに行く人が多いそうです。リピーターも非常に多いようで、みなさんオーナーのNabilさんともすっかり家族のように打ち解けていました。
私もずっとこの宿にいたい!と思うくらいチェックアウトが惜しかったですし、絶対にまたこの宿に来るためにベツレヘムへ来よう!と決意しました。
ホテル自体はBooking.comから予約できます。
タクシーをチャーターして観光ツアー(2日目)
生誕教会とミルク・グロット
惜しみながらもDar Sitti Azizaをチェックアウトしてからは、早朝からキリスト教で神聖な場所とされる2スポットを徒歩で見学しました。
生誕教会は文字通りキリストが生まれた場所に建てられたとされており(新約聖書には馬小屋で生まれたと書かれていますが...)、多くの敬虔なキリスト教徒の方々が礼拝を行っていました。
人がはけた瞬間を見計らって撮影しました。工事中の場所がありましたが、内部の装飾はどれも美しかったです。
ミルク・グロット教会は洞窟内に作られた教会です。イエス・キリストの母マリアがイエスに母乳を与えようとしたところ母乳が地面に落ち、洞窟が一面ミルク色に変わったことから名前がついたと言われています。
中はミサの最中で、生誕教会と同じく敬虔な信徒の方々が礼拝をしていました。
バンクシーの絵画巡り(2日目)
モハメドさんがホテルにピックアップしに来てくれたのでバンクシーの残りの絵画も見てまわりました。
うち一枚はバンクシー・ショップというバンクシーの絵にちなんだグッズを販売するお土産屋の中にありました。商才を感じます。
そのままバンクシーがプロデュースした「ウォールド・オフ・ホテル」へ向かいました。
実は入るだけならタダ、バンクシーのホテル
ウォールド・オフ・ホテルはバンクシーがプロデュースし、2017年にオープンしたホテルです。目の前にパレスチナの分離壁が見えることから「世界一眺めが悪いホテル」として有名になりました。
タクシードライバー兼ガイドのモハメドさん曰く連日予約でいっぱいのようで、宿泊費もかなり高価なようです。
ただ内部を見るだけであれば無料ですし、内部にはパレスチナの現状を伝える博物館もあります。こちらもバンクシーがプロデュース。
バーカウンターでは割と多くのドリンクを注文できるようで、昼間からお客さんもチラホラ見かけました。
パレスチナの分離壁とアイダ・キャンプ
バンクシーホテルことウォールド・オフ・ホテルを出て、目の前の分離壁(アパルトヘイト・ウォール)をぐるっと見てまわりました。
ここを訪れた人々による平和への願いを込めたメッセージやストリートアートが並んでいます。
写真にある赤いヒジャブをまとった女性はRAZAN(ラザン)。ガザ地区の戦闘で負傷した人々を助けようとしたところ、狙撃兵に撃たれ命を落とした看護師です。パレスチナの人々にとっては忘れられない悲しみの記憶です。
こちらはイスラエルのネタニヤフ首相とアメリカのトランプ大統領のポートレートですが、ネタニヤフ首相の顔には落書きがされており、トランプ氏に至っては絵の原型をとどめないほど上書きされています。
最後にもっとも有名で大きい難民キャンプであるアイダ・キャンプを訪れました。
1948年から70年以上続く最大の難民キャンプで、現在でも故郷に戻れない人々がここで生活しています。
鍵の形をしたゲートが入り口です。
キャンプ内の壁にもストリートアートや平和を願うメッセージがたくさんかきこまれていました。
タクシードライバー兼ガイドのモハメドさん曰く、「ここではパレスチナの人々が普通に生活しており、報道されるように毎日戦闘が起きているわけではない。むしろ毎日戦闘が発生しているのはガザ地区であり、ヨルダン川西岸は現在は比較的治安が安定している」とのことでした。
言葉通りキャンプ内は私が予想していた以上に静かでした。ラマダン時期だったからかもしれません。
モハメドさんにアイダ・キャンプの入り口で降ろしてもらい、しばらく1人で中を歩きました。
ナクバの日を翌日に控え、あらためて平和について考えさせられました。
帰りはアイダ・キャンプからエルサレムへ戻るバスターミナルへ向かい、モハメドさんとはお別れ。
パレスチナ自治区のパレスチナ人統治エリアから抜けて、イスラエルエリアに戻ってきた。さよならベツレヘム !🤤👋
難民キャンプやバンクシーの絵、バンクシーがプロデュースしたホテルも見て色々考えさせられたりした
それにしてもヨルダンのエリアの方からずっと煙立ってた。なんだったんだろう? pic.twitter.com/TPJB52T6sG
— megan㌠ (@sunteam097) May 14, 2019
パレスチナに入る時には特に手続きなどはありませんでしたが、パレスチナを出る際にはパスポートを提示し簡単な検査を受けました。
このように駆け足ではありましたが一泊二日でパレスチナを訪れました。訪れる先々で会った人々は皆本当に優しく、日本の報道で受けるパレスチナの印象とは大きく異なる印象を受けました。
特にホテルのオーナーのNabilさんとツアーガイドをしてくれたタクシードライバーのモハメドさんのおかげで忘れられないパレスチナツアーになりました。
一方で至る所にかつての戦闘の跡が生々しく残っていたり、人々の口から哀しみの記憶が語られたりするのには、この地に真の平和が訪れるのはまだ先なのだろうなぁと感じざるをえませんでした。
いつ政情が不安定になるかわかりませんし、ヨーロッパでは比較的知られているとは言えあまり日本人に馴染みのない場所ではありますが、ぜひ機会があればみなさん一度訪れてみることをお勧めします。
その際にはぜひDar Sitti Azizaに宿泊してみてくださいね!きっともう一つの家ができたように感じられると思います。Booking.comから予約できます。
1人では不安、という方はVELTRAだと日本語のツアーがあるのでおすすめです。